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2012-10-21 四万十川ウルトラマラソン

瓦林良和

 四万十川の流れを眺めながらの一日の旅。果てしない100キロは、しかし、いつかは終わる。それにしても、100キロである。長くて、楽しくて、辛くて、厳しくてである。旅は旅したものにしかわからない。あなたも、来年は是非、四万十の旅へ。


マラソン受付前

 四万十川沿いを100キロ走るマラソン。天気は上々。

 大会は前日受付なので、午前中に徳島を出発。高速道を徳島道から高知道を乗り継いで、須崎へ。そこからは、地道を走って四万十市へ。町外れの受付会場へは迷うこともなくたどり着く。

 

 受付は、体育館。2000名のランナーだから、会場も混み合ってなくて、ちょうどいい感じ。今年の石を探して、花の絵を書いたものにする。受付をして、ゼッケン等をもらう。車に戻って、いったん町中へ出て、ガソリンをいれて戻る。前夜祭で食事をして、買い物をして戻る。

 

 すっかり日がくれているが、受付の運動公園のグランドは照明が点灯されていて、明るい。車の影になる側に、テントを張る。中に入って、ゼッケンやチップを装着などの作業をする。眠くなってきたので、シュラフに入って眠る。

 

 2時半くらいに、目が覚めて、トイレに行く。空には満点の星。オリオンが今日の天気を保証している。まず、お湯を沸かし、アルファ化米にお湯を注ぐ。残ったお湯でコーヒーを淹れる。朝イチのコーヒーは一日の最初としては上等。出来上がったドライカレーは期待した以上の味。コーヒーとも相性抜群。

 そうこうしているうちに、すでに三時を回っていて、慌てて、テントを撤収。本来なら、夜露などを乾燥させたいところだけど、時間がないので、たたんだまま、車の中に押し込む。必要最小限の荷物をもって、スタート会場へのバスに乗る。

 

 スタート会場は、町外れの学校。とりあえず、体育館に入って時間待ち。その間にトイレにも行って準備万端。体育館を出て、荷物を預け、グランドへ。知り合いと会い、今日の健闘を誓う。スタート地点への誘導が始まった。いよいよ、長い一日の始まりだ。

スタートから峠まで

 まだ、暗闇の中、かがり火の焚かれたスタート地点。スタートアーチが私たちのこれからの時間を刻む入り口だ。少し寒いかと思ったが、人が間近にいるし、風もないので暖かい。今日のコースを思い、それぞれの間合いで、スタートを待つ。

 

 スタートの乾いたピストルの音に、スタート。ゆっくりと動きだし、長い一日が始まる。川霧がコースを押し包む。集団の流れの中、ゆったりと走る。長い一日、急ぐ人もいない。やがて、歩道との境の縁石に、ろうそくの明かりが並び、我々を導いてくれる。闇に浮かぶ明かりは、滑走路のよう。

 

 山際が少し夜の色が薄くなり、やがて、空はうっすらと白み始め、谷間にも朝がおりてくる。徐々に夜が明けていくのをこんなにじっくりと見るのは、一年間でもこの大会だけだ。

 

 やがて、道は、谷間を走るようになる。右に左にと曲がりくねり、農家の庭先を抜けて行く。田んぼはもう稲刈りも終わって、晩秋へと移りつつあるようだ。15キロを過ぎて、道は、本格的な峠道になる。これが21キロまで続く。険しくはないが、辛抱のいる道だ。山の端を朝日が染めている。高度を上げて、その日差しの中を走る。21キロを過ぎて、峠を越える。まだ、力を出してはいけない時期だ。

峠から、カヌー館まで

峠からは急に落とし込むように下っていく。ここでも、脚を使わないよう、衝撃を抑えつつ走るが、やはり、それでも速かったのかもしれない。ほぼ、坂を下り切ったあたりから、右膝の腸脛靭帯が痛み始め、しばらく走るうちに、左膝本体が痛くなってきた。それでも、まだ、問題なくはしれていた。

 

 30キロで四万十川本流にようやく出会う。木々の間から、川を眺めなが、割りと順調に走るが、足の痛みが増してきた。息も上がってきたので、トイレによる。少し、ペースを落として足の様子をみようと思う。しかし、ペースを落としても、足の痛みはひかず、左膝はかなり深刻な状態。痛くて、体重を乗せられなくなる。それでは、右足に負荷がかかりすぎるので、無理をしても、左右均等に負荷をかけようとする。右カーブで左側の路面がわずかに高くなっていらだけで、苦痛てうめいてしまう。

 

 給水所で水をもらって、膝を冷やす。右の腸脛靭帯は、おとなしくなった。左膝も少しはましになるけど、すぐまた痛くなる。ペースは上がらず、もんもんと進む。カヌー館でエアサロを吹けば、多少は良くなるだろうか。しかし、カヌー館は、まだ、30キロ先。遥なり。

 

 関門を通過し、収容バスを見る度に、リタイアを考えるようになる。40キロを過ぎて、60キロの先頭集団がさっそうと駆け抜けていく。そりゃ、元気だよね。まだ、走り始めて間もないもの。

 

 そこから、60キロの部に参加している知り合いに次々抜かれる。その都度、声をかけてもらうが、膝が痛くてと、なぜか言い訳をしてばかり。心は、リタイアの理由を探している。そうすると、体も、あちこちから、ここも痛いです、こっちもですと、不具合箇所を提示してくるようになる。遥かな、カヌー館。脚はもう動かない。心はすでに折れている。

 

 40キロを過ぎて、明るい田舎道をたどる。42キロはいつ過ぎたのだろう。どんどんと、ランナーに抜かれていく。果てしない堕落の気分。ここでリタイアしたら、カヌー館によるのかな。寄らなければ、カヌー館の荷物はどうなるのかな。などと、すっかりネガティブな気分。

 

 50キロを過ぎて、このコースの目玉の一つである、半家沈下橋を渡る。川面近くまで坂を下って橋を往復する。四万十川に最も近づくポイントの一つ。目玉なのに、その往復や坂の登り降りが恨めしい。

 

 そして、これを過ごすと、やってくるのがコース中2つ目の峠。短いが坂が急で、前回もこの峠を超えたあと、走れなくなった。歩かないと決めているので、ゆっくりではあるが、小刻みに高度を上げていく。歩いている人に抜かれるが、それでもそのまま走り続ける。やがて、峠を超える。なるべくゆっくりと、膝に負担がかからないように下る。

 

 60キロを過ぎ、カヌー館が待ち遠しい。こんなに遠かった?木々の中をひたすら目指す。ゼッケン番号を読み上げているテントの前を通過して、すぐにカヌー館へ。わずかに登った道に喘ぎ、そして、下っていく。知り合いの声援の声が聞こえる。知らない人もたくさん応援してくれている。預けてあった荷物を受け取り、食べ物をピックアップして、芝生に腰を下ろす。

カヌー館から、ゴールまで。

 芝生の上で、左膝にエアサロを振って、アイシングする。これで少しはましになるだろうか。Tシャツを着替える。乾いたものを着て少しさっぱりする。周りにいる人達は、みんな疲労困憊。疲れきって芝生に横たわる人もいる。さて、ここでやめようかと、はたと問う。止める理由はたくさんある。でも、辛いから止めるのであれば、ウルトラマラソンに参加した意味が無い。止めるのなら、行けるところまで行ってからだろう。制限時間にかかった時だろう。何より、まだ走ることが出来る。ゆっくりだけれど、まだ進める。

 体が、少し休まると、思考もポジティブになってくる。痛い脚を引きずりながら再スタートする。あと38キロ。まだ、遥か先である。

 70キロ手前で、岩間沈下橋を渡り、右岸側へ。やがて70キロ。71キロの関門はクリア。まだ、1時間くらい余裕はあるけれど、だんだんと関門時刻が気になり始める。

 

 カヌー館を出てから、給水所では、膝を水で冷やし、1キロの表示があるところ以外に立ち止まらず、まさに、1キロずつを拾うような苦しい旅が続きます。それでも、80キロを過ぎると、だんだんと残りの距離が少なくなっていく実感が湧いてくる。しかし、どこまで行っても1キロは遠い。

 

 86.9キロの関門も無事通過。また、10分、制限時刻までの余裕が縮まった。あと、15キロ、まだまだ遠いけど、普段の練習距離に入ってきた。

 

 今日は暑かった。日陰がないところも多く、日射しの中は辛かったが、それもすっかり山の向こうに沈み、辺りは薄暗くなり始めている。90キロを過ぎてペンライトを渡される。ぼーっと黄色い光が、点々と道に続いている。足元を照らすには暗いが、ランナーの心の支えにはなっている。

 

 道にはボランティアスタッフの車が止められ、ヘッドライトで道を照らしている。ランナーへの声援が、頑張れに加え、お帰りなさいが混じり始める。最終関門93.9キロを通過すれば、もう、あとはゴールが待つだけだ。遠くに、四万十の街の灯も見えるようになってきた。真っ暗な木立の中を抜ける道。発電機が置かれ、灯火が道を照らしている。本来は静寂に満ちた、あるいは虫たちの鳴き声しか聞かれないような場所なんだろうけど、ちょっと騒々しい出迎えだ。

 

 突然、木立を抜けると、町のハズレに出る。そこを左折すれば、あと1キロ。しかし、ここからが、また登り。わずか数百メートルほどの距離だが、この登りが足にこたえる。しかし、止まらない。ここまで来たら、止まらない。ゆっくりと坂を登る。篝火が赤々と迎えてくれる。沿道には沢山の人が出て迎えてくれている。お帰り、頑張った。また来いよ。様々な言葉に、手を振って応える。

 小さな峠を超え、道を左に折れると、細い町中の道を下る。学校の裏に出て、そこでも、温かい声援を受けながらの最後のラン。ゴールの学校の校門を入る。校舎の裏を抜ける。フィニッシュ前のセンサーを通過する。角を曲がると、ゴールの校庭が明るく輝くのが見える。そして、最後に校舎の角を曲がって校庭に出ると、明るく輝くゴールが目の前に迫ってきている。ゴールするランナーの名前が読み上げられている。自分の名前も呼ばれている。

 

 ゴール前は、フィニッシュにゴールテープを切るための順番待ちの列ができている。数人を待って、いよいよ自分のゴール。テープを横切り、思わず手が上がる。長くて、苦しい旅はここで終わった。